未経験スタートのライターが子連れで海外取材?!かつてのコンプレックスが作ってくれた「自分らしさ」
「そんなに無理してまで仕事したいの?もっと子どもたちとの時間を大切にしたら?」
これは当時、毎朝2~3時起きで仕事をする駆け出しライターだった私への、母の言葉です。
「私は誰より子どもたちを大切に思っている」
さっと血の気が引き体温が下がったような感覚と、ぎゅっと握りしめた手に自分の爪が刺さって痛かったことを、今でもよく覚えています。
もくじ
始まりは、ライフステージの変化

私がライターを志した大きなきっかけは「ライフステージの変化」でした。
結婚に伴う引っ越しでの離職。出産。いつ出るか読めない夫の海外転勤辞令。
まだ幼い子どもたちとの時間を大切にしたいと思う一方、次々と復職する周りのママたちを見て落ち込むなど、産後数年は中途半端な自分への焦りと未来への不安でいっぱいでした。
この先どこに住むかわからないからこそ、家族も仕事もどちらも大切にしながらフレキシブルに生きていきたい。
そう思った私は、小さな頃の「書くことを仕事にしたい」という夢を胸に、まずは区の子育てサイト編集ボランティアに応募します。他にもWebマガジンのライターインターン、女性誌の読者ブロガー、そしてベンチャー企業で短時間のパートもスタート。
未来を切り拓くきっかけを探し試行錯誤する日々が3年ほど続いた頃、そんな私の姿を見ていた知人の編集者・千秋さんから「女性誌のWebサイトで記事を書いてみない?」と声がかかります。
仕事の説明を受けるため、最後にいつ履いたかも思い出せないとっておきのヒールを引っ張り出し、子どもたちを一時保育に預け、胸を高鳴らせながら向かった編集部。
忙しそうに原稿をチェックするスタッフの姿と、「自分の視点は大切にしつつ、ブログとは違うプロとしての記事を書いてね」という千秋さんの言葉に、緊張でピンと張っていた背筋がさらに固く伸びました。
でも久々のヒールでできた靴擦れがじんじんと痛んでいることには、お迎え時間ギリギリに保育所へ駆け込むまで気づきませんでした。
不安でいっぱいだった子連れ取材が「自分らしさ」のヒントに
忘れもしない最初の取材は「親子向けブーケ作りワークショップ」。
いつもの休日は公園で走り回るのが定番という5歳息子と、果たして無事に「子連れ取材」を終えられるか……しっかり手をつなぎ開催場所へ向かう道すがら、キリッと冷たい12月の空気の中で、私はひとりハンカチで汗をぬぐっていました。
「お!かっこいいお花を選んだね~!!」
まるで雑誌の表紙のような洗練された雰囲気の店内。
持ち前の好奇心を発揮し、目の前に並んだ色とりどりの花たちの周りを行ったり来たりする息子。先生役の女性に「好きな花を選んでね」と言われる頃には、せっかく着せてきたおしゃれなシャツを脱ぎ、いつものTシャツ1枚姿になっていました。

周りの参加者がカラフルなお花に次々と手を伸ばす中、息子が選んだのはユーカリなど大振りのグリーンや枝ものばかり。
ちゃんとブーケを作れるのか心配する私をよそに、完成したのはスタイリッシュな花束でした。
もし自分だったら「もっと可愛いお花にしたら?」なんて言っていたかもしれない。
子どもの感性を大切に、楽しませながら素敵な作品に導いていく先生の姿勢には親としての学びも多く、そんな気づきを記事の軸にしました。
息子と一緒だったからこそ書けたコラムは、今でも迷った時などに読み返す、大切な第一歩。
ブーケを持った息子と撮っていただいた記念写真で微笑む私の顔は汗でテカテカしており、今見るとちょっと恥ずかしくも愛おしい1枚です。
未経験スタートで企画から入稿まで全て担当
そこから始まったライターとしての日々は、取材や執筆だけでなく、企画提案から入稿、修正対応まで全てをこなし、慣れないことばかり。
本当に困った時はすぐ助けてくださる千秋さんですが、とにかく多忙なため、自らの頭で考え行動しない限り前に進めない状況。作業が追い付かず、真っ暗なリビングで半泣きでパソコンに向かったことも1度や2度ではありません。
当時、息子は幼稚園児。下の娘は、やっと見つけた短時間保育にお願いしており、兄妹別々の場所への送迎は自転車で往復1時間。いつも天気予報を見て雨が降らないよう祈っていたし、お弁当も毎日必要でした。
パートも続けており毎晩寝る頃には文字通りへとへとで、子どもたちに読み聞かせる絵本を自分の顔に落としてばかり。
冒頭の母の言葉は、そんな時期の私に向けられたもの。
私自身も子育て中なのに、娘を心配する親の気持ちが見えないほど、当時は必死だったのだと思います。
失敗を乗り越え掴んだ「セブ島親子留学取材」
息子がぴかぴかのランドセルを背負って自分の足で学校に行くようになった頃、執筆したコラムの通算が100本を超えました。
取材を通じて人とのご縁も広がる中、ある日Instagramに「インフルエンサーとしてフィリピンのセブ島へ親子留学に来ませんか?」というDMが届きます。
ママと子どもで一緒に留学し英語を学ぶという「親子留学」。私も当時興味を持っており、すぐさま千秋さんに提案するもOKは出ず、何日かやりとりを続けるうちに先方から「他の方にお願いした」という連絡が。
貴重なチャンスを逃した原因は、魅力的な内容に浮き足立って詰めの甘い提案をした自分の浅はかさ。深く反省した私は、イチから調べ直すことに。
そして出会ったのが「セブ島親子留学のパイオニア」と呼ばれる女性でした。
ご自身の子育て経験から親子留学事業を立ち上げた経緯、その行動力や温かなお人柄に感銘を受け、「この方を絶対に取材したい!」という熱い想いのもとで練り直した企画は無事通過。
お返事の際、「ママのリアルな目線をもとに、等身大の言葉で記事を書かれている佐々木さんに、是非お願いしたいと感じました」という言葉をいただきました。
そして編集部からは、本誌1ぺージとWeb記事3本という想像以上のボリュームで書けるという連絡が。任せてくださったのは他ならぬ千秋さんでした。
”何もないと思っていた自分が、子連れで海外取材に行ける日が来るなんて”
こみ上げてくるものを押さえきれず、おふたりからのせっかくのメッセージは、すぐにぼやけて見えなくなってしまいました。

「弱み」に思えることも、自分らしさのひとつ
かつては弱みと捉えていた「未経験」や「子育て中の状況」も、実は「自分にしかない経験」でもある。
その考え方は、今でも自分を前に進める原動力のひとつです。
子育ての実感が記事の種になり、一方で取材が子どもたちの学びや体験の幅を広げてくれることもある。気づけば暮らしの全てがゆるやかにつながり、子育ても仕事も自分らしいバランスで大切にできるようになりました。
そしてコロナ禍、夫だけ先に海外へ赴任しワンオペで大変な思いをしていた時、仕事ができるようにと子どもたちを数日間お泊まりさせてくれたのは、母でした。
その後、家族揃っての海外生活中もライターを続けることができ、今では誰よりも新しい記事を楽しみにしてくれる存在です。

「ママはライターなんだよ」
書く仕事が好きな理由はたくさんありますが、思わず顔がほころんでしまうのは、やっぱり子どもたちが少し自慢気に話してくれる瞬間です。
「家族」と「書くこと」を大切に、これからも読んでくださった方が、ほんの少しでも前向きになれるような発信を目指していきたいです。
※とってもお世話になった”千秋さん”は、このnote内での仮名です
著者プロフィール

- 株式会社リクルート等を経て、結婚・出産を機にライターへ。現在は集英社の人気女性誌のwebサイト『LEEweb』でのコラム連載や日本有数のニュースサイト時事通信社「時事ドットコム」 での特集記事など、女性目線・ママ目線に強いライターとして暮らしや子育て、旅、国内外のトレンドから社会的な取り組みまで幅広く執筆。丁寧なリサーチ・取材に基づいた等身大の体験記事、インタビュー記事、実体験をもとにしたコラムに定評があり、企業サイトでのコラムやPR記事、編集業務などにも携わる。著書にkindle「今こそ!フリーランスママ入門」。夫の海外転勤に同行し2022年より家族でブラジル・サンパウロ、その後アルゼンチン・ブエノスアイレスで生活。







